戦列艦とは
大砲が生まれ実用化されるようになると、出来るだけ短い時間に、弾をたくさん敵に撃ち込むことが勝敗を分け、そうなると陣形や作戦が非常に重要になってきます。陣形や作戦が重要視されるようになると、軍艦の速度、運動性能、火力、が強く意識され、軍艦はこれらの点から分類されるようになっていくことになります。
もっとも、最初は厳密な基準などなく、最初は乗組員の数だけで分けていたようですが、次第に、陣形や作戦の発達に伴い、精密な基準が設けられ、トン数、砲数、帆装も基準に組み込まれていきます。戦列艦の基準が時代によって異なるのは、そのようなことが背景になっているそうです。
なお、このような基準は、単に戦術上の船の運用のためだけでなく、船の建造当時から系統・計画的に建造するために使用されたので、このような戦列艦構想に従って作られた軍艦を戦列艦と呼んでいるようです。
※現在でも、巡洋艦とか、駆逐艦とかの呼称がありますが、これらの分類も、基本的にはこの構想と発想は同じだと思います。(受け継いでいる。※※)
なお、イギリスが最初に、この戦列艦構想を考え出したのですが、それは1650年頃のことのようです。ただ、18世紀でも○等艦と説明される船は多くありません。つまり徐々に意識されていったのだと考えられます。
1等艦 | 艦隊旗艦(数は少ない。) | 100門前後 |
2等艦 | やはり艦隊旗艦 | 70から90門位 |
3等艦 | 時代にもよるようですがここまでが、艦隊主戦力※ | 60門位 |
4等艦 | 商船の護衛・偵察艦・通報艦(数は少ないようです。) | 40門位から50門位まで |
5等艦 6等艦 | フリゲート艦とも言われる。通商活動の破壊・商船の護衛・偵察艦・通報艦 | 20門以上 |
等外艦 | 沿岸警備など | 20門以下 |
※上記3等艦までを、普通、戦列艦と呼びます。
※※上記でいわゆるフリゲートは、現在では巡洋艦にあたると、よくいわれます。しかし、巡洋艦とフリゲートでは、何か大きな差を感じます。当時、フリゲートは私掠活動など小戦闘に用いられるイメージがありますが、WWでの巡洋艦は重巡であれば、ほぼ戦艦に近い運用が行われているイメージがあります。これは、船が内燃機関の力で動くようになると、戦法にも大きく影響を及ぼし、さらに戦艦を補助する艦の位置づけに大きく影響を与えたためと推測されます。(このクラスの艦船が非常に重要と考えられるようになり重装備になったのではないかと思われます。)
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74門艦
セブンティフォーと呼ばれます。大英帝国のシーパワーの屋台骨を支えたといわれる船(船種)です。もともとはフランスが開発し、それを拿捕したイギリスが、その船の優秀性に着目して自国で活発に造船しました。
帆船としての性能(船足、旋回性能)火力、それらのバランスが、最も取れていると言われます。写真はヴァンガードというアマティ社のブランド:ビクトリーモデルから販売されているHMSヴァンガードです。(イギリス海軍は艤装品や大砲などをユニット化していることから、このキットは、それをうまく利用しHMSバレラフォン、HMSエレファントに改造できるようになっています。)
なお、この時代のイギリス艦一般にみられる黄土色と黒色のストライプは、ネルソンカラーと呼ばれる独特のカラーです。
なお、これより、少し小さめの64門艦にアガメムノンという船がありますが、ネルソンの最もお気に入りと言われていました。
HMS アガメムノン
セブンティフォーより、やや小さめの64門を搭載する艦です。
アガメムノンはネルソン提督が35歳頃から38歳頃までのっていた船ですが、もっとも愛着を持ち、そして、縁が深かった船として有名です。
戦列艦の位置づけでは三等級艦(二層甲板64門艦)です。74門艦が32ポンド砲を備えるのに対し、64門艦は24ポンドしかもたず、軽装ですが、快速で操艦性に優れており、知将には、もっとも活用のしがいのある船であったに違いありません。アガメムノンは、そのほか、コペンハーゲン海戦、トラファルガー海戦、サントドミンゴ海戦の3回の大海戦に参戦しています。
HMS ビクトリー
一級戦列艦です。また、現存ずる最後の戦列艦です。(現役艦)
1778年に就役。サンヴィンセント岬海戦で活躍したものの、その戦闘で相当のダメージを受け、一時は病院船へ転換されるようなこともあったものの、1803年には、当時の状況から、大改修が行われネルソンの座乗艦となり、1805年にはトラファルガー海戦に参戦しました。現在もイギリス海軍本部第二武官委員の旗艦とされ、イギリス海軍の象徴として、ポーツマスに係留されています。
設計は当時もっとも有能な軍艦設計者の一人であるトーマス・スレイド卿。同艦の優秀さの秘密は、水面下の船体のラインのすばらしさにあり、そのため、速力・操艦性ともに、非常にすばらしいものがあったと言われています。
なお、このカルダークラフト(ジョティカ)のこのキットは、2年の歳月をかけ、トラファルガーの戦いの際のVictoryを正確に、非常に詳細にわたって再現したものです。
ポーツマスのキュレーター(学芸員)であり、またH.M.S.Victoryの管理に携わり、現在、トラファルガー時のVictoryを研究なさっているPeter Goodwin氏から助言を得て製作されています。
HMSとは?
ご紹介させていただいた船には、みんなHMSがついています。これはHer(His) Majesty’s Shipを省略したものです。意味は「女王(国王)陛下の船」という意味です。
艦船接頭辞といわれるもので、具体的には英国海軍の艦艇であることを意味します。
木造帆船時代で艦船名の前につく、他に有名なものとして、スペイン艦の「ヌエストラセニョーラ」というのがあります。 ヌエストラセニョーラ の意味は聖母(直訳は「我らが貴婦人」)です。
ヌエストラ・セニョーラ・デ・ラ・アニマス
とか
ヌエストラ・セニョーラ・デ・ラ・ サンティシマ トリニダー
(船名は 「サンティシマ トリニダー 」です。)
というような使い方をします。
左の写真は ヌエストラ・セニョーラ・デ・ラ・アニマス(17世紀末) の写真です。
ただ、 ヌエストラ・セニョーラ という言葉自体は、広く使われるようなので、今でも使われるHMSのような使われ方をしてはいないと思います。(おそらく)
なお、豆々知識としてヌエストラ・セニョーラ をフランス語に翻訳するとNotre Dame(ノートルダム)です。